kmn.3  川原泉「銀のロマンティック・・・わはは」
                                    発表年 ’86年

花と夢コミックス 全1巻
白泉社文庫 「甲子園の空に笑え!」
              全1巻 に収録


旧気ま娯新聞の漫画の3つ目は、高橋留美子「めぞん一刻」だったんだけど、巻数が多くて人物関係図等を作ったり、まとめ直したり、が面倒なので、後に回す

ことにした。そのかわりに「銀のロマンティック・・・わはは」です。川原さんは、わたしが山岸凉子様に並んで崇拝している大好きな漫画家で、アランフェスに続いて

フィギュアスケート物だし話も長くないし、で選んでみた。なんかテレフォンショッキングみたい!

これは友達にも言われたことだが、本来わたしはこういうタイプの話を好きになる様な趣味趣向はない(漫画ということを差し引いても)なぜなんだろう?大好きです。

実際の生活でも、川原漫画に出てくるような、欲が無くて人が良くて、のんびりしてる、みたいな人って苦手なタイプなんだけどな。その人が表面しか知らない程度

の仲の人だったら、間違いなく見ててイライラしてしまう。なのに川原漫画は好きなんだよ。

多分、欲が無い・人が良い等と言ったって、ただそれだけじゃなくて、川原漫画に出てくる人たちの「自分のペースを崩さない姿勢」が地味にかっこいいから好きなん

だと思うさ。川原さんの漫画に出てくる女は、本当に恰好いいんだ。本気で憧れてしまう。


 ストーリー
  元スピードスケート日本代表選手の影浦忍と、世界的に知られるバレエダンサー兼振り付け演出家の父を持ちながら

  余りバレエの才能に恵まれなかった由良更紗が、偶然ペアを組んで、フィギュアスケーターになる。

  という話。



「アラベスク」や「愛のアランフェス」と並べたら、美しい、とは言いがたい絵(わざとの部分も含めて)なのに、泣ける!引けをとらないぜ!深刻さは「アラベスク」や

「愛のアランフェス」の1/10程度なのに!巻数も1/8なのに!漫画を描くのがうまい、ということでしょうね。

それから、わたしは川原さんが選ぶ言葉が好きです。細かいコマ割りも文字だらけなとこもワクワクする。後ね、由良・影浦ペアがエキシビジョンの時に、男女逆

のパートを滑って拍手喝采を頂くシーンがあるのだけれど、わたしはそういうアイディアは大賛成。バレリーナだったら、「オデットを踊れ(白鳥の湖の主役)」と

言われればオデットを踊り、「キトリ(ドン・キホーテの主役)を踊れ」と言われればキトリを踊り、「春の祭典(バレエの作品名です)に出ろ」と言われればあの曲に

合わせて踊りこなさなければならないけれども、スケート選手はバレエダンサーよりは自分の個性に合った演技を選べるんではないかと思う。多分。プロ

スケーターは別だろうけど。だからね、苦手分野を克服することも必要だけど、美しく優雅に、っていうのが苦手なら、別の方向に演技の個性を向けることを考えた

ほうが良い思うということです。今の日本の選手は、割と演技が似ている感じがするのですが、みんな趣味が似てるんだろうか。選曲にも個性が見えない!

わたしの場合、先生にに踊れと言われた作品が自分が苦手なタイプの踊りだったらなんとか物にしようと努力あるのみですが、自分が振付ける場合は、最初から

趣味を全開にしています。妖怪好きなわたしは、いくつか妖怪を妖怪をモチーフにした作品も作ったのですが、何も知らない中学生とかに一緒に躍らせたりして

楽しかった!やっぱり自分が好きなテーマ・曲の作品を踊るほうが楽しいに決まってますから。

フィギュアの選手は、その1曲に全てをかけて大会に参加するわけだから、最大限に自分を発揮できる演目を選ぶべきです。そういう自分の特徴を分かっていて

更に踊れるタイプの選手は、試合の演技は勿論のこと、エキシビジョン等で見せる自由な演技もとても面白いです。日本人のエキシビジョンでの演技には、余り

これ良い!と思えるものは少ない。更紗たちの、男女逆転演技、実際に見てみたい。



漫画について言えば、更紗の冷めた性格がとても好き。後、「火の玉ボーイ」とかそういう言い草が。更紗のような女になりたい。大まかな筋としては、ありがちとも

言えるところもあるけど、川原さんの独特な言い回しというか表現というか、何かそんなものによって、誰の作風にも似ていない(言い切ろうかやめようか悩むが)

作品になってると思うのだ。「銀のロマンティック・・・わはは」以外の作品でも同じ。

やっぱりね、川原さんは漫画がうまい。わたしは、漫画は絵とストーリーが相乗効果で良く見えなければおもしろくならないと思うので。川原さんは、絵が抜群に

うまい訳じゃないと思う。でも、それが漫画になったら面白いならいいわけで。絵が下手だったらイラストレーターにはなれないかもしれないけど、その絵で面白い

漫画が描ければ良いわけで。最近は、みんな絵がうまいですね。だからって本の表紙だけ見て買うとがっかりすることが多い。漫画家って言えるのか、こいつ。

と思うこともしばしば。勿論、漫画というだけでわたしは全て許すけどさ。

話が作りたいなら小説家を目指せば良いし、絵が描きたいなら画家等を目指せば良いし、でも漫画家を選んだ以上は、ちゃんと漫画としての表現方法を考えたら

良いような気がします。というより、わたしの希望です。


好きな台詞

*更紗の踊りを見た父の台詞

 
 「だが・・・動作の一つ一つがあまりにもテロリズム(やはり母親がいないせいだろうか?)」

*初挑戦でトリプルジャンプを成功させた更紗に対抗して、自分も始めてトリプルを跳ぼうとする影浦を見た更紗の台詞

  
「どひゃ〜 火の玉ボーイ! 負けず嫌い」

*更紗とペアを組ませようと、影浦にスケートクラブ入会を誘った烏山兄妹が、約束の日、影浦を待っている時に更紗が言った台詞

  
「希望的観測にすがってると あとで泣きをみるよ」

*演技の見せ場を作るため、4回転ジャンプに挑戦しようと言った更紗に対して反対意見を述べた影浦へ、更紗が言った台詞

  「私がうつくしく4回転する時 影浦さんはひとりさびしく3回転半跳んでな」

*4回転のコツを体を張って教えてくれたポチ(更紗の飼い犬)に対する、更紗と影浦の心境

  「人間と犬の染色体を超えたヒューマンアプローチ  ポチ −その愛−」

*お前の演技(バレエの)は案山子のようだ、と父に言われた更紗の台詞

  「自己陶酔型のとーちゃんと違って 私の場合 理性が優っているから 人前で自分だけ情緒の世界を展開するのはちょっち・・・
      客席には人間がいっぱいいるしな〜 ただとまどうばかり」

*上の更紗の言葉に対する、父の答え

  
「馬鹿者が! 己の感性の世界に観客を無理やり引きずり込んだ時 感動とゆーものが生まれるのだ」

*由良・影浦ペアの演技を見たアナウンサーの台詞

  「こ・・・これはすごい!一生懸命を絵に描いたようなスケーティング!」

*1位の外国選手を見ての更紗たちのコーチの台詞

  「こやって見るとどーっちゅー事のない普通のにーちゃんとねーちゃんだが・・・ひとたびリンクにたつと たちまち情熱的な絶世の美男美女と化し
         付近一帯に振りまくのは 花・星・点描   それはそれは豪華絢爛なスケーティング絵巻を繰り広げるのだよ」



  実際ね、ダンスやスポーツに限らずなんか技術を持ってる人がそれを披露してる時って、

  本気で花とか見えたりする。

  それから、理性と感性についての、由良親子の会話、どっちも納得。中途半端に情緒の世界を

  展開されても、見てるほうも踊ってるほうもとても恥ずかしいものです。気をつけたいところです。

  ダンスというのは、役に没入しながらも、冷静に演技しなければいけない。という難しいもので、

  両方のバランスをうまく取らないと、只の自己満足で終わったり内容の無い馬鹿馬鹿しい演技に

  なってしまったりする。精神面だけでなく、肉体的にも制御しながら解放する、という反対のことを

  同時にやらなくてはならなくて、本当にこの世界はたいへんだなぁ。と最近思い知ったのでした。

  花とゆめコミックス P130
     遥cpによる模写